オーケストラ日誌!Day 2 ~チャイコフスキーな季節~

クリスマスムード絶頂期なドイツから、こんにちは。クリスマスが近づくとともに日照時間が短くなり、どんよりとした天気が続きますが、それとは対照的に、街はクリスマスプレゼントを買いに行く人やクリスマスマーケットを訪れる人などで大賑わいです。

どこからそんなに現れたのか…というくらいの人であふれていて、春・夏のお天気のよい日に日光浴をすべく一斉に家から出てくる人たちよりも多いのではないかと思うほどです(笑)。日本では恋人と過ごすことも多いクリスマスですが、ドイツでは家族と静かに過ごすのが一般的です。

さて、12月といえばクリスマス。クリスマスといえばロマン!? ロマン派の作曲家といえばチャイコフスキー!…ということで、12月はチャイコフスキーのバレエ作品『くるみ割り人形』や『白鳥の湖』が上演されることが多いですよね。我がシュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団でも先日、プログラムをすべてチャイコフスキーの作品で固めた演奏会がありました♪

オールチャイコフスキープログラム!

今回の演奏会のプログラムはこちら。

・序曲 ヘ長調
・ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調(ピアノ:ルーカス・ゲニューシャス)
・バレエ組曲『白鳥の湖』
・アンコール:バレエ組曲『くるみ割り人形』より花のワルツ

指揮は、新日本フィルハーモニー管弦楽団で音楽監督を務められている、上岡 敏之(かみおか としゆき)さんでした。

ヒットナンバーばかりに思われる作曲家・チャイコフスキーですが、1曲目の『序曲 ヘ長調』はほとんど知られていない曲だったようで、指揮の上岡さんも、私も、30年オーケストラで働いている人も、演奏するのはこのときが初。といいますか、おそらくオーケストラ全員が人生で初めて演奏するという非常にまれな状態だったのでした。

25歳で書かれた初期作品ということもあってかあまりロマンチックではなく、むしろ非常に技巧的な部分が多くて、なかなか大変な1曲でした。演奏会後はみなさん、「きっとこの曲を演奏するのはこれが最初で最後だろう」と仰っていたほど…(笑)。音源が少ないのでご紹介できないのがとても残念です。

バレエ組曲『白鳥の湖』は、言わずと知れた名曲。私も、ベルリン・ドイツ・オペラのアカデミー生時代に、どのオペラよりもこのバレエを弾いたのではないかというくらい演奏しました(笑)。組曲を初めて弾いたのはもう10年以上前のことですが、当時所属していたジュニアオーケストラで友人たちと1年間精一杯取り組んだ思い出深い曲です。『くるみ割り人形』の花のワルツとともにどちらもハープが大活躍するので、密かにハープに憧れを抱いている私にとって眼福…ならぬ耳の保養になったプログラムでした。

ミラノでの演奏会

今回のプロダクション(演奏会とそれに関連したリハーサルをまとめて、プロダクションと呼んでいます)は、イタリア・ミラノとシュトゥットガルトでそれぞれ1回ずつ演奏会をやるというものでした。ミラノでの演奏会場は、ヴェルディ音楽院内のコンサートホール。うちのオーケストラはよくミラノで演奏することがあり、4月から在籍している私も今回が既に3回目でした!

ヴェルディ音楽院のコンサートホール、サーラ・ヴェルディ

このプロダクションの最初の演奏会開催地がミラノだったので、ゲネラルプローベ(通称:GP、ゲーペー)と呼ばれる3時間程の当日リハーサルはミラノでおこなわれることになっていました。

通常、GPではプログラムを通して、少し直しをする程度なのですが、今回はどうしてもピアノ協奏曲を入念にリハーサルせねばなりませんでした。…というのも、事前にシュトゥットガルトで予定よりされていた、協奏曲の唯一のリハーサル日に、ソリストが悪天候のため来られなかったのです!

よく演奏される協奏曲ですから、演奏することに基本的な問題はないのですが(私は初めてだったので、冷や汗ものでした)、ソリストによって演奏の仕方が違うので、もちろんリハーサルなしというわけにはいきません。こんなこともあるのだなぁと思いながら、いつもより熱が入ったリハーサルをおこなったのでした。

国が変われば聴衆も変わるわけで、演奏会にいらしたイタリアの聴衆のみなさんはなかなかさっぱりとしていました。以前ミラノ・スカラ座を訪れたときにも感じたましたが、熱しやすく冷めやすい。拍手が続くときはものすごく長く続きますが、誰かがやめればみんな一斉にやめる、という感じでびっくりしました。もちろん演奏への満足度を素直に表していらしたのかもしれませんし、21時という遅い開演時間の影響もあったのかもしれませんが、その切り替えの早さにイタリア人の国民性をかい間見た気がしました。

移動や隙間時間も、外部演奏会の醍醐味

演奏旅行というほどの規模ではありませんが、シュトゥットガルトからミラノまでは途中スイスのチューリッヒでの乗り換えを含み電車で8時間かかります。プライベートで現地入りする人もいますが、半数以上のおよそ50人が団の予約した交通手段で移動します。

8時間も電車に閉じ込められて何をしているのかというと…編み物をする人あり、本を読む人あり、おしゃべりする人あり、休む人ありですが、私はいつも数人とUNOを遊んでいます♪ もちろんずっとやっているわけではありませんが、以前のミラノ旅行では30ゲーム以上やったこともありました。

こういった移動の機会は、同僚との親睦を深める絶好の機会。試用期間が始まった頃も移動公演が多く、その道中や現地での食事の機会などを通して、みなさんの輪の中に入っていくことができました。

今回は、リハーサル後から演奏会まで時間があったので、団員8人ほどでホテル付近の公園内にあったスケートリンクへ。まさかみなさんとスケートを楽しめるなんて思っていなかったので、とても楽しかったです♪ もちろん、演奏会にはみんな無傷で(多少の筋肉痛で?)無事に参加しました。

帰りも8時間かけて電車で帰ったのですが、途中信号トラブルにより電車が不通になり、別のルートを通って2時間遅れで帰るというハプニングが…。さすがに10時間の(あまり快適とはいえない)電車での移動は疲れが溜まってしまい、移動公演のコンディショニングの難しさをあらためて実感したのですが、それはまたの機会に書きたいと思います。

ドイツとスイスの国境にあるラインの滝。この滝が見える瞬間に「おぉー!」というのがうちのオケの慣習です(笑)

次回はジルベスターコンサートとニューイヤーコンサートの様子をご紹介したいと思っています。みなさま、よいお年をお迎えくださいませ♪

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あきこ@シュトゥットガルト

5歳よりヴァイオリンを、13歳よりヴィオラを始める。東京藝術大学卒業、ベルリン芸術大学修士課程卒業。ベルリン・ドイツオペラのアカデミーを経て、現在はシュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団に在籍。