アナリーゼ入門2「まずは簡単な楽典から! 音階、楽式の概論を学ぼう」

こんにちは、依々森志学です。

“楽曲を読み解くための初歩の力をつけたい” という方を対象に「アナリーゼ」の基礎を解説していくべく始まった本連載。今回はまず初歩的な知識として「楽典」に焦点を当てます。

楽典とは?

楽典 理論と実習』音楽之友社

“楽典”と聞くと、この黄色い本を思い浮かべる方が多いかもしれませんね。私も音楽大学を受験する際にまずこの本で基礎を押さえました。

『楽典』とはなんでしょうか。簡単に言うならばそれは「音楽のルールブック」のようなものです。音楽には拍子や音楽記号、調号などの「音楽を音楽として支える、基礎的な土台の部分」があります(中にはそれをわざとはずした音楽もありますが、ここでは例外とします)。

では早速、アナリーゼを学ぶ上で重要なポイントに絞って、楽典をさらっていくとしましょう。

ポイント1:音階について

音階について『楽典 理論と実習』の言葉を借りてみましょう。

音階とは、「ある点を起点として、1オクターブの同音の音に達するまで、特定の秩序にしたがって配列された音列を音階という」と説明されています(93ページより抜粋)。

その中でも長音階と短音階というものがあります。

楽器店や文房具店の筆記用具コーナーに行くと、調号が羅列してあるクリアファイルなんかも売っていたりします

よく古典の楽曲の中で「ハ長調」「ロ短調」と耳にするものですね。

音階には長調、短調それぞれに1オクターブの数のピアノの鍵盤、白鍵、黒鍵から始まるものが12種類。名前(主調)が異なるけれど同じ音から始まる調というものも含めると、15種類あります。

こうして見るとかなりの種類があって混乱してしまうかもしれませんが、クラシックの、特に古典に限って言えばそこには「よく使われていた調号」が存在して、代わりに「ほとんど誰も使わなかった調」というのもあります。

たとえばヘンデルの『オラトリオ〈メサイア〉』のハレルヤコーラスや、ヨハン・シュトラウス1世の『ラデツキー行進曲』など、どこかで耳にした覚えも多いと思われる名曲の多いDを主調としたニ長調。

反対にD#を主調にした嬰ニ短調はほとんど使われた例がありません。

これには楽器との相性や作曲者の視点からの使いやすさなどが理由にありますが、一番にはそれぞれの調号がもつ、“各調の性格” によるところが多いでしょう。

たとえばハ長調はシャープやフラットがつかない関係から「明るく白いイメージ」をもつ方が多いようです。同じ長調でも「変ト長調はしっとりと落ち着いた雰囲気」(ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』など)、あるいは同じCを主音に持つ調でも「ハ短調はなにか絶望的な感じ」(ベートーヴェンの『運命』など)のように感じる人が多いようです。

作曲家たちは、意図的に調を選んで作曲しています。音楽鑑賞をする際はぜひ曲全体がもつイメージを感じ、作曲家の意図に思いを馳せてみてください。それも立派なアナリーゼ入門になります。

ポイント2:楽式について

さて、楽譜を全体として見ていく上でもうひとつ欠かせない知識があります。それは「楽式」と呼ばれるものです。

楽式とは「楽曲の形式」のこと。「ピアノソナタ」「メヌエット」「ノクターン」など名前は聞いたことがあるかと思いますが、それらの作品群には決められた形式(楽式)があり、それに則って作曲されているのです。

楽式にはさまざまなものがありますが、まず初めに知っておくべきなのは、基礎楽式とも呼ばれる「一部形式」「二部形式」「三部形式」です。

一部形式と二部形式

「一部形式」については簡単に「8小節の大楽節(固まり)で作られた音楽」と説明してしまいましょう。童謡や民謡でしばしば見られる形式です。

そして「二部形式」。先ほどの一部形式をひとつの大楽節と捉えるのであれば、こちらも単純明快に「2つの大楽節を組み合わせた形式」と分類してよいでしょう。

何気なくクラシックを聴いていると、同じようなフレーズの繰り返しだけれど少し違って聞こえる、ということがありませんか? これはA-A’型、つまり一度演奏した一部楽式を変奏する形でA’とした二部形式です。さらに細かく見ていくと、たとえばA(a-a)-A'(a’-a”)というように分解できることも多くあります。

楽曲分析の視点から読み解くならば、A-A’型は「似たフレーズを変奏し、演奏することによって音楽に安定感を与えている」と説明できるでしょう。

ほかにも、A-B型という全く違う大楽節を組み合わせた形のものがあります。

三部形式

基本的にはA-B-AやA-B-Cのような、3つの大楽節からなる形式のことを三部形式と呼びます。いろいろな形式に応用できる柔軟な楽式で、古典でもよく使われる「ソナタ」「メヌエット」「バラード」もそのひとつです。多くの作曲家が三部形式を元に作品を作っていて、一部楽式や二部楽式に比べるとかなり分析の難しいものや構成が複雑なものも出てきます。

例としてA-B-A形式でよく登場する「対比」という概念をご紹介しましょう。対比とは、たとえば明るい「Aの大楽節」に対して「Bの短調の暗いフレーズ」(一種の不安定さ)を楽曲に組み込み、もう一度Aの明るい大楽節に戻す、というような手法のことです。

全体的に短く分かりやすい対比の例として、シューマンの《子供の情景.op15》を聴いてみるとよいと思います。シューマンはロマン派を代表する作曲家で、特にピアノの楽曲が有名なのですが、この『子供の情景』は短い楽曲の連作になっており、幻想的な夢の世界を思わせる『トロイメライ』などを含めた全十三曲からなる小品集となっております。


(《子供の情景.op15》より『見知らぬ国』)

ぜひ譜面を見ながら演奏を聴き、三部形式がどのようなものか理解を深めてください。

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今回取り上げた楽式については、今後のコラムでも要となってくるポイントですので、ぜひ頭に入れておいてくださいますと幸いです。次回は和音について取り上げます。

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依々森 志学

東京都出身。20代を過ぎてから初めてクラシック音楽に興味をもち、音楽大学の作曲学科に入学。作曲について指導を受けながら音楽理論を学ぶ。作曲家の伝記や作品の逸話を読むのが趣味で、ドイツまで旅行に行ってしまうほどのバッハ好き。