はじめまして、作曲家の依々森志学(いいもり・しがく)と申します。このたび「クラシック音楽をもっと楽しめる!」をテーマに、アナリーゼについてのコラムを連載することになりました。
この連載では “楽曲を読み解くための初歩の力をつけたい” という方を対象に「アナリーゼ」の基礎を、簡単なところから丁寧に解説しつつ、そして何よりコラムとして楽しく学びながら読み進めることができるように続けていきたいと思います。
アナリーゼとは?
第1回目のコラムということで、まず「アナリーゼ」というものについて、「どのようなことを学ぶのか」そして「どのように、よりクラシック音楽を楽しめるようになるのか」ということについて解説していきたいと思います。
アナリーゼでおこなうことは、大まかに言うと2つあります。1つ目は「音楽理論を使って楽譜を分析、読み解く」こと、2つ目は「音楽史を通して作曲家の生きた時代背景から作品に対する見識を深める」です。
音楽理論を使って楽譜を分析、読み解く
数多くのクラシック作曲家、たとえばバッハ、ハイドン、ベートーヴェン、モーツァルトなどの作品の中には必ず根本となる規則、理論があります。
もちろん、古典派の作曲家として知らない人はいないほどの歴史に名を残す偉人たちの作品、その卓越した技法で描かれた楽譜を読み解くことは、とても難しいものです。
しかし簡単な音楽理論を押さえた上で作品を大きく「形式」として、あるいはもっと細かく1小節の「和声」として分析して改めて捉えてみると、とても難しく感じていた作品も実は初歩的な音楽理論の応用で分析できることも少なくないのです。
作品に対する見識を深める
「音楽の歴史を知ること」について、たとえばポップスに80年代、90年代と流行りがあるように、クラシック音楽にもバロック時代、古典派時代、ロマン派時代と、ある形式が主流となる時代が存在します。
古典派時代の始まりひとつにしても、宮廷作曲家に就任し貴族のための音楽家として作品を作り続けたモーツァルトと、その後に史上初めて音楽家を芸術家として表明し作品の数々をこの世に残していったベートーヴェンでは、創作の環境や音楽を作る目的が大きく異なります。
そしてそれを知り作品に触れることで、今までとは別の視点から「作曲家が作品の中で表現したもの」が見えてくるのです。
アナリーゼの魅力とは?
そんなアナリーゼの一番の魅力は「音楽に込められたメッセージ」を読み解ける楽しさにあると思います。
なぜなら、たとえばあなたの好きなクラシックの音楽、何度も聴いた名曲、ずっと心に残っている不思議な旋律、それらが「なぜあなたを引きつけ続けているのか」という答えが、アナリーゼの知識を身につけることでより明確にわかってくることがあるからです。
逆に、今までは敬遠していた楽曲を別の視点から見ることで、新たな魅力を発見することもあるでしょう。
『エリーゼのために』の甘い旋律
作曲家達の描いた楽譜には当時の「流行していた音楽」や「はやりの音楽理論」、「育った環境」そして「楽曲が創作された経緯」が大きく表れています。
たとえばベートヴェンの『エリーゼのために』は、当時想っていた恋人に捧げるための楽曲だった、つまりラブレターの一種だったという逸話はご存じでしょうか。それを知っているだけで、今までとは少し違う目線から「楽譜に込められた想い」を知ることができる気がしませんか?
職人気質だったバッハ
ヨハン・セバスティアン・バッハというひとりの作曲家に関しても、音楽監督を務めたトーマス教会のために執筆したカンタータや、今なお演奏され続けている『ミサ曲ロ短調』や『マタイ受難曲』も含めて、およそ三百曲近くの作品を執筆し生涯を過ごしていたことを知ると、彼がいかに作曲家としてまじめに作品を作り続けていたのかを知ることができます。
そして彼が残した名曲『チェンバロ協奏曲 第1番 ニ長調』を聴いてみると、当時の主流であったバロック音楽の成熟を感じとることもでき、理論だけではなく歴史としての知識からもまた、音楽を楽しむことができるのです。
音楽をさらに楽しむために
このように、「理論で楽譜を読み解く術」を身につけるためだけでなく、「作曲者の想いや、作品がどのような経緯で作られたのかを知る」ことができのがアナリーゼ。クラシックをよく知らないという方には入門の足がかりとして、既にクラシックを愛する方にはさらに楽しむためのツールとしてぜひ活用してもらいたい知識なのです。
次回はさっそく楽譜を用いて、まずは初めに知っておくべき簡単な音楽理論について解説します。
それでは、また次回お会いしましょう!
依々森 志学
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