カラダを張ったワークショップで「クラシック音楽」をもっと身近に!

はじめまして! 作曲家・ピアニストの大友清心きよみ)です。

いきなりですが「クラシック」の語源を知っていますか?

いくつか語源と言われているものがあるのですが、そのうちのひとつに「階級」を意味するラテン語の「class(クラス)」があるそうです。その中でも最上級の高尚なものを表すのが、クラシックだということです。

つまりクラシック音楽とは「高尚な音楽」。それはそれですばらしいのですが、今日多くの方が「クラシック音楽ってなんだか難しそう…」と感じてしまっているという事実は、打開していかなくてはならない現実です。

このメディア『COSMUSICA』のキャッチコピーも「クラシック音楽をより身近に感じてもらうための」というものですが 、世の中にも、クラシック業界の現状を打破すべく、同様のコンセプトを持った企画がたくさん存在しています。

また、実は私個人もワークショップを企画するなどして、少しでも多くの方にクラシックをより身近に感じていただけるよう活動しております。本日はコスムジカでの初めての執筆となりますので、この活動を通して感じていることをお話ししたいと思います。

「知らない曲」を楽しむということ

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クラシック音楽業界が低迷している原因には、まず前述の通り「近寄りがたいもの」という印象があると思います。加えて、私自身が音楽活動をする中でよく耳にする「クラシックの曲をそもそも知らないから楽しめない」というご意見も、クラシック離れの大きな要因のひとつだと感じています。「お勉強をしてからじゃないと演奏会に行ってはいけない」と思っている方は、少なくないのかもしれません。

ですが、仮にクラシック音楽が「しっかりと勉強した上で聴かなくてはならないもの」だとしたら、世の中には超有名曲ばかりのプログラムの演奏会しか存在しなくなる、と思いませんか? 実際、クラシック音楽に一番触れているであろう演奏家の方々でも、知らない曲の方がずっと多いものです。笑

知らない曲を楽しむためにはどうしたらいいか…? それは、「クラシック音楽の魅力を感じられるアンテナ(視点)を持つ」ことだと思います。

たとえば、私の考えるクラシック音楽の一番の魅力は、「ひとつの曲に対して、何十年、何百年もの間に、数え切れないほどたくさんの奏者がそれぞれの価値観の中ですばらしい演奏を残している」ということ。

私自身、作曲家として作品を発表してきた中で、初演の際に奏者がすばらしい解釈をしてくれたおかげで、自分の思っていたよりずっと魅力的な結果がうまれたという経験を幾度となくしています。そのため、奏者の生の演奏の価値を身をもって感じているのです。

演奏者は、美しい曲は美しく、そうでない曲さえもいかに魅力的に演奏できるかにかけています。それをくみ取り楽しむ視点を持ってみると、今までとは違った側面からクラシック音楽を楽しむことができるのではないでしょうか。

大人の合唱パーティ♪

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さて、演奏者というのは、ただ楽譜を追って音符を再現すれば良いというものではありません。それぞれがきちんと譜面を深く読み込み、解釈することによって、表現に奥行きを持たせているのです。

その過程を実際に体験していただくことによって、クラシック音楽をより楽しめるきっかけを作れるのではないか? と考えた私は、このようなワークショップを企画しました。その名も、大人の合唱パーティ♪ 

大人の合唱パーティ♪」は、実際に声を出し、カラダを張って、演奏者の視点になって演奏体験をするというもの。私とソプラノ歌手のふたりで共同企画しています。

毎回、オペラの名シーン、日本歌曲をピックアップしながら、なるべくいろいろな視点から音楽の魅力に触れていけるようにと工夫しています。せっかくなので、具体的にどのようなことをしているか紹介させてください。

オペラ

オペラを取り上げるときは、その作品の登場人物やあらすじをざっくりと紹介した上で、以下のようなことをおこなっています。

  • カルメンの『ハバネラ』を、カルメンのキャラクターになりきって地を這うように会場をぐるぐると歩きながら、そこに音楽を乗せるように歌う。それによって、ただの4拍子ではなくその中での音楽の持つ重心やキャラクターの表現を体験する
  • 魔笛の『「パパパ」二重唱』を、2組に分かれて、パートナーの様子をうかがいながら動きをつけて歌い、フレーズの掛け合いの表現と、空間と演技を交えたオペラの体験をする
  • アイーダの『凱旋行進曲』を、「アイーダトランペット(メロディ)」、「アイーダトランペット(装飾)」、「ホルン」、「コントラバス」の4パートに分かれ、声でその楽器奏者になりきって行進しながら歌う。楽器の特性を学び、オーケストラ部分に関心を持ちながら作品を楽しめるような体験をする

このように、ただの歌唱指導ではなく、それぞれの題材をじっくりと掘り下げ、大人の皆さまならではの笑いも交えつつ楽しんでいただいております。

日本歌曲

日本歌曲では、美しい日本語の詩を大切にしながら、このようなことをします。

  • 「同じメロディの繰り返しの1題目と2題目は同じ歌い方でいいの?」という問題提起から始まり、詩の解釈と音楽の分析をおこないながら、「2題目はもうちょっと遠くに広げる感じで」とか「詩が喜びにあふれているから、躍動感を持って」といったように表情をつけていく
  • 『この道』を歌う上で重要な「あぁ」の歌詞の部分について、それぞれの題で、どのような場所から、どのような顔をして思い出しているのか…を想像しながら表現を模索する
  • 『夏の思い出』の「水芭蕉の花が咲いている」の部分が、もし「夏が来れば思い出す」と同じリズムだったら? もしもこの曲の作曲者が凡人だったらどのような表現になっていたか…? と問いかけながら、いかにそのフレーズが粋で美しいかを再確認した上で歌う

こうして、その曲自体の美しさや演奏者の表現する視点を体験しています。

ワークショップを通じて思うこと

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実は、このワークショップは当初『「クラシック音楽には興味はあるけど、知らない曲ばっかりだから演奏会には行きにくい」と言っている大人たち』をターゲットに企画したものでした。

ですが、フタを開けてみると、「クラシックにそもそも興味もなかったが、宣伝に目をとめてふらっと参加してみた」という方から、合唱団に所属している方、そしてプロの奏者まで、思っていた以上に幅広い層の方々が参加してくださいました。私は、その現場に立ち会うたびに、クラシック音楽は「知っている」「知らない」は関係なく楽しめるものということを実感しています。

先日、嬉しいお話を聞きました。「パパパ」の会に参加された、これまでオペラを見たことのなかった方が、その翌月に初めて魔笛を見に行かれたというのです。その方は、「ワークショップで歌ったパパゲーノ役に親近感を持てたので楽しんで鑑賞できた」と言ってくださり、作品を身近に感じるためのきっかけ作りができたのだと嬉しく感じるとともに、活動の手応えを感じました。

このワークショップ活動は規模の小さいものですが、クラシック音楽に携わる身として、本業である作曲や演奏だけでなく、自分にできる形で工夫していく姿勢が大切なのだと信じて取り組んでいます。

その結果、少しでもクラシック音楽を楽しいと感じ、好きになってくれる人が増えていきますように!

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大友 清心

作曲家・ピアニスト。北海道出身、東京藝術大学作曲科を経て、楽器やうたで演奏するための音楽を作り、声楽曲・オペラの伴奏や室内楽のピアノを弾いている。

1 個のコメント

  • 凄い。藝術大学卒の才媛ですね。
    期待してます。
    先生。宜しくお願いします。