第3回:「練習しなさい」と言わないための、がんばらない処方箋

楽器選びや置き場所のパズルをなんとかクリアし、いざレッスンがスタート。「これでようやく音楽のある生活が……」と息をついたのもつかの間、次に親を待ち受けているのは「日々の練習」という、果てしなく続く現実ですよね。

最初は「肩の力を抜いて気長に向き合っていこう!」なんて思っていたはずなのに、気づけば毎日「ピアノ弾いたの!?」と眉間に皺を寄せてしまう。「練習しない問題」は、習い事を始めた多くの家庭が通る道なのかもしれません。

理想と現実のギャップ。「練習しなさい」と言いたくないのに……

そもそも我が家の子供たちは、自分から「ピアノをやりたい!」と直訴してきたわけではありませんでした。だからこそ、最初から「自分から進んで練習してほしい」という願いもなかったですし、期待もしていませんでした。

いえ、していなかったはずでした。なのに、いざレッスンが始まって数ヶ月が経ったら、無意識のうちに子供へ期待してしまっている自分に気づきました。私自身が「子供の頃にもっと練習しておけばよかった」という後悔がかなりあり、無意識に子供に投影してしまっている気がします。

さらに現実的な問題として、フルタイムで働きながら日々の練習に付き合うのは、難しいを超えてほぼ不可能です。退勤後は一息つく間もなく、夕飯の準備、お風呂、寝かしつけと怒涛のスケジュールが待っています。小学生からは学校の宿題も加わって、その隙間に「ピアノの時間」を捻出するのは至難の業です。

「私が横にべったりくっついてあげれば、もう少しなんとかなる」という事実を認識しながら、気長に教える時間も心の余裕もありません。たまに時間を作って横についてみても、子供が「難しい!できない!」と癇癪を起こすと、こちらもついイライラしてしまい、せっかくの音楽の時間がギスギスした空気で終わってしまう……。そんな自己嫌悪のループに陥ってしまいました。

「がんばらない」練習法。我が家のリアルな試行錯誤

そんな毎日のギスギスを少しでも回避するために、我が家でもこれまでに色々な方法を試行錯誤してきました。

①「一回だけ…!」作戦

一つ目は、練習のハードルを極端に下げること。「今日はとりあえず1回だけ弾こう」「5分だけやろう」と提案してみると、意外とすんなりピアノに向かってくれることもあります。

ただ、この作戦の難しいところは、本当に1回だけ、あるいは5分できっちり終わったときに「親が絶対に文句を言わない・怒らないこと」なんですよね。私の方から「1回だけでも弾こう」と声かけしているのに、本当に一回で終えられると怒りが……(笑)。「1回だけでも弾こう、でもできれば3回弾いてほしいな!」と言ってみるときもあります。まだまだ試行錯誤中……。

また、我が子は弾けるようになればある程度楽しいようで、すでに「合格(まる)」をもらった曲は嬉々として弾く傾向があります。そのまま「練習おわり!」となることが多いので、「先に新しい曲の譜読みをやってね〜」と声をかけることもしばしばあるのですが、せっかくピアノに向かって楽しい時間を過ごしているのだから、その気持ちや時間も奪いたくないな、という気持ちもあり。時間配分が難しいと思う日々です。

②親が楽しむ姿を見せる作戦

以前、著名なピアニストの方にインタビューのお仕事をさせていただいた際、雑談がてら「子どもが練習しなくて…」と言ってみたところ、お母さんがまず音楽を楽しむ姿を見せないとね、と言っていただいたことが強く印象に残っていました。

そこで、実は私も最近、子どものレッスンのあとの時間に、月に2回だけピアノのレッスンを受け始めました(我が家は送迎時間省略のため、先生に自宅まで出張レッスンに来ていただいているので、ハードルが低かったです)。前述の目的もありますが、仕事・育児・家事に忙殺される日々の中でも「音楽を楽しむ心」を自分自身が思い出したくて。

蓋を開けてみると、私が家で練習している間、子供たちは特に関心を示す様子はありません(笑)。でも、たまに私の練習曲を子どもがふと口ずさんでいたり、「そこはもっとこうやって弾いたら?」とアドバイスをくれることもあるんです。意外と、親が楽しむ姿や音を耳で聞いているのかもしれません。将来的に、これが思わぬ形で何かの影響を与える可能性もなくはなさそう…と思っています。

③ご褒美シール作戦

もはや余談の域ですが、習い事の定番である「ご褒美シール作戦」は、我が家にはまったく効きませんでした。もちろん、これが効くお子さんもたくさんいるはずです。色々と試しながら、その子にピタッと合うアプローチを見つけるプロセス自体を、親のほうも面白がれたらいいですよね。

音楽を「嫌い」にさせないための、親の距離感

力を抜きたいと思っていても、ふとしたときに「せっかくお金を出しているんだから」と邪念が降りてきて、「最低限でいいから練習して!」とイライラしてしまう未熟なわたし……。でも実はわたし自身、子供時代に親から一度も「練習しなさい」と言われたことがなく、驚くほど練習しない子どもでした。当時の先生も、ある意味で諦めていたというか、とても辛抱強く見守ってくださる方でした。 結果として、演奏能力はかなり低いです。それでも、大人になった今もこうして音楽の近くで生活し、楽しめていることには、家族からも友達からも「意外だね」と言われるほどです。

振り返ってみると、あのとき親から「やらされるプレッシャー」を与えられなかったからこそ、音楽が嫌いにならず、大人になった今に繋がっているのかもしれません。 子育てにも、音楽への向き合い方にも、「これが正解」「これが成功」という絶対的なものはないのだと思います。何よりも優先すべきは、親子ともども「音楽を嫌いにならないこと」だと思っています。どうしてもイライラしてしまいそうなときは、子どものピアノのことは一旦忘れて、自分の練習だけに向き合っています。

「がんばらない!」を合言葉に、これからも肩の力を抜いて、それぞれの家庭の心地よいペースで「子供と音楽」のロードマップを描いていけたらいいですね。

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この記事を書いた人

COSMUSICA発起人/編集長。1989年生。ハープ・ピアノ好き。東邦大学医学部医学科中退、東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業。お仕事のお問合せはnoriko.soundpool◎gmail.comまでお願いいたします

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