縁の下の力持ち! 音楽を支え、ときに優しい音色でソロを奏でるコントラバスの魅力

いつもCOSMUSICAをお楽しみの皆さま、はじめまして! このたび、新たにライターとして参加することとなりました、コントラバス奏者の井口信之輔と申します。

僕はオーケストラや吹奏楽、サロンオーケストラのような小さな編成の楽団で児童館を回ったり、芸術鑑賞会で演奏したりしています。他にも、中高の部活動でコントラバスの指導にあたったり、アマチュアオーケストラのトレーナーを務めたり、メールマガジンや音楽雑誌で執筆活動をおこなったり…と、決まった組織に所属せず、いろいろな組織とさまざまな仕事をしています。

今回は、僕が演奏するコントラバスについて紹介したいと思います。

コントラバスのおはなし

コントラバスはチーム弦楽器の中で一番大きな楽器で、太くて低い音が特徴です。

弦楽器の中では最低域の音を出し、およそ3オクターヴの音域(上限は演奏者による)を演奏の音域を演奏することができます。楽譜は主にヘ音記号を使って書かれますが、実際に出てくる音は、楽譜の表記よりも1オクターヴ低い音です。

コントラバスは、モーツァルトやハイドンといった古典派の時代まで、チェロと同じ楽譜を演奏することがほとんどでした。つまり、チェロとコントラバスがオクターヴ違いでユニゾンし、バスラインを形成していたのです。これらが明確に分離したのは、ベートーヴェンの『交響曲第3番 英雄』(1804年)の中でのこと。

一説によると、イタリアのコントラバス奏者ドメニコ・ドラゴネッティが、ベートーヴェンのチェロソナタをコントラバスで弾いてみせたところ、ベートーヴェンがその演奏技術に感銘を受けたことがきっかけになったとか。そのエピソードがこちら。

ドラゴネッティは英国ブライトンのサミュエル・アップルビー殿にこう語った『ベートーヴェンは、新しい友人(ドラゴネッティ)が大きな楽器でチェロ曲を弾きこなせると聞いたので、ある朝、彼が部屋を訪れてきたとき、ソナタを聴きたいと望みを伝えた。そして、コントラバスを運んできて、チェロソナタ第2番Op.5-2を選んだ。ベートーヴェンは自分のパートを弾きながらも、目はパートナーに釘づけになり、最終楽章でアルペジオにさしかかると嬉しさのあまり興奮して、演奏を終えるや奏者のところに飛んで行って楽器ごと抱きしめた。』 その後の数年間、オーケストラの不運なコントラバス奏者は、その楽器に見出した能力と可能性を、ベートーヴェンは忘れていないことを何度も思い知らされた。」(セイヤー, 1967年)

出典:ドメニコ・ドラゴネッティ- Wikipedia

ちなみに、この『チェロソナタ第2番Op.5-2』は、今でもコントラバスで弾く機会を、ほとんどみたことがない。

ドラゴネッティは13歳という若さでヴェネツィア喜劇オペラの首席奏者へ、そして14歳のときに聖ベネデット劇場の首席コントラバス奏者へ就任する伝説的なコントラバス奏者です。その演奏は桁違いにパワフルで、深夜ホテルのバルコニーでコントラバスを練習していたところ、次の日の朝になると宿泊客が「嵐が聞こえたか?」と口々にしたという超人的エピソードもあるほど。

ソロも弾ける! コントラバスの名曲紹介

いつもは最低音域を担当し、音楽を支える縁の下の力持ちですが、ソロを演奏することもあります。コントラバスの太くて暖かい音色を生かした作品や、大きな楽器の指板を駆け巡るような超絶技巧を求められる作品も残されています。

カプッツィ/コントラバス協奏曲 ニ長調

コントラバスらしい低音域を生かした作品。全3楽章からなる作品で、音楽大学への入学試験で演奏されることも多い。また、この曲の第2楽章と第3楽章は『アンダンテとロンド』という作品として管楽器奏者のソロ曲としても知られている。

ディッタースドルフ/コントラバス協奏曲第2番 ホ長調

幅広い演奏技術を求められ、オーケストラのオーディションの課題曲にもなる曲。コントラバスを勉強する人にとって長い年月をかけて学び、演奏を重ねていく作品でもあり、音楽大学の廊下ではかなりの確率でこの曲が聴こえてくる。曲想は明るく、冒頭のコントラバス独奏部分は22世紀からやってきた猫型ロボットが登場する国民的人気アニメのエンディング曲に似ていることで有名である。

グリエール/4つの小品より『インテルメッツォとタランテラ』

ロシアの作曲家グリエールが、コントラバス奏者であるクーセヴィツキーに残した作品。コントラバスの性能が存分に発揮される名曲で、非常に高い技術が求められる。

特に、とてつもない速さで左手が指板を駆け回る『タランテラ』は世界で一番難しいコントラバスの独奏曲とも言われているらしい。

ボッテジーニ/コントラバス協奏曲第2番 ロ短調

イタリアの作曲家、指揮者、そして19世紀を代表するコントラバス奏者であったボッテジーニが残した作品。コントラバスが、イタリアオペラのような旋律を美しく豊かに歌い上げ、ときに卓越した超絶技巧を披露する曲。音楽大学の卒業試験でも頻繁に演奏される曲のひとつ。


コントラバスのソロは初めて聴いたという方も多いのではないでしょうか? 縁の下の力持ちであって、ときにその低くて暖かい音色を生かしたソロも演奏できる。そんなコントラバスの魅力、知っていただけたら嬉しいです。

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千葉県出身。洗足学園音楽大学卒業。クラシック音楽を軸にコントラバス奏者として活動するほか「吹奏楽におけるコントラバスの理解と発展」に力を入れており、SNSを通し独学で練習に励む中高生に向けた発信をおこなっている。また「弦楽器の視点から見たバンド指導」をテーマに吹奏楽指導者として多くの学校で講師を務めている。昭和音楽大学研究員、ブラス・エクシード・トウキョウ メンバー。これまでにコントラバスを寺田和正、菅野明彦、黒木岩寿各氏に師事、指揮法を川本統脩氏に師事。趣味はアロマテラピーと釣り、ドライブ。