「オペラやっぱ楽しかったわ。」 Nr.1

ベルリンに住むようになり、あっという間に半年が経った。

声楽を学ぶ私にとって、大きなオペラ劇場を3つも擁するベルリンという街はとてつもなく魅力的だ。どの公演も必ず、これまでにないような刺激を与えてくれる。そしてそれこそが、私がベルリンに留学しようと決意した最大の理由のひとつと言えるだろう。

この経験を自分の胸に刻むため、そして少しでも多くの人にオペラの魅力を知ってもらうため…この連載では、私が観て、聴いて、感じたベルリンのオペラ公演の最前線を、心のおもむくままに、書きつづっていきたい。

「楽しくなければ音楽じゃない」

作曲家の故羽田健太郎さんの言葉、音楽の道を志した時から私のモットーである。

しかしながらどんな道でも進んでみると道は険しく、時にその楽しさは忘れられがちになる。これは道を志したものに限らず、趣味を突き詰めた場合にも起こりうる問題で、いずれの場合も膨大な情報や知識に楽しみは飲み込まれてしまいがちだ。

声楽を専攻する私の場合は、オペラ鑑賞においてその障害が生じた。ある時から私はオペラを純粋に楽しめなくなってしまったのだ!

人生を変えるオペラとの出会い

ベルリンで出会ったオペラ

そんな私に衝撃が走ったのは2016年5月。現在住むベルリンに、初めて訪れた際の出来事であった。知り合いであり、尊敬してやまない指揮者、小林資典氏がベルリンのコーミッシェ・オーパーで指揮を振ることになり、聴きに来ないかとお誘いを受けた。

演目はモーツァルト作曲『ドン・ジョバンニ』。日本でも、もう幾度となく観てきた。出演したことはなくとも、すっかりそらんじて歌えるほどだ。当然ながらこの作品は、すばらしい楽曲の数々で、名作であることは私が語るまでもない。

しかしそれでも、その日の上演が私の人生を変えることになるとは、到底思いもしなかった。

今まで見たこともないような『ドン・ジョバンニ』

小林さんからの前情報として、この公演はかなり衝撃的だと伺っていた。心の準備はしていたものの、幕が開いて、白塗りの、まるで、映画『バットマン』の敵役、ジョーカーのような出で立ちでドン・ジョバンニが現れたときは度肝を抜かれた。

ほかのキャラクターは? もちろんみんなジョーカー(ふう)だ。メイクや衣装の衝撃はさることながら、その演出の斬新さにはさらに度肝を抜かれた。すごい、すごい面白い。いや。ちょーウケる。

観客は待ってましたとばかりに、客席から歓声を上げ、声を出して笑っている。幾多の女を弄び、最後は怨念によって破滅の道に向かはずのドン・ジョバンニが笑いを取りまくっている。

この物語は、多くの演出においてはシリアスに扱われがちだ。しかしコーミッシェオーパーは我々にこう言っているかのようだった。

「みんな忘れてませんか?これ、dramma giocosoだってこと」

ドン・ジョバンニはドラマ・ジョコーソという「滑稽なドラマ」を意味する台本形式を取っている。その「滑稽」の部分をここまで濃縮還元した演出は私はいまだかつて見たことがなかった。しかし、おおいに笑った。オペラを見て、初めて声を出して笑った。

オペラを楽しむ

既存の考え、慣例、正しいとされるもの、普通、もちろんそれが悪いと言っているわけではない。しかし、楽しんだっていいじゃないか! おもしろいんだもん! やれるところまでやっちゃっていいじゃないか! 舞台は夢の世界だもん! 私はベルリンで、「オペラってやっぱりおもしろいものだった!」ということを再認識することができた。

演奏家であるからうんぬん、テクニックがうんぬん、この際そんなことは語らない。それはきっと、私よりも上手に語ってくれる方が他にいらっしゃるだろう。

ということで、今シリーズ「オペラやっぱ楽しかったわ。」では、等身大の、現在進行形、音楽を学び演奏する私が、見て感じたまま、独断と偏見に満ちたレポートで、オペラのおもしろさをお伝えしていきたい。乞うご期待!

ABOUTこの記事をかいた人

平山 里奈

東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学院音楽研究科修士課程独唱専攻卒業。学部卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞し、同声会新人演奏会に出演。東京藝術大学新卒業生紹介演奏会にて藝大フィルハーモアと共演。2014年夏には松尾葉子指揮によるグノー作曲「レクイエム」に出演。これまでに声楽を千葉道代、三林輝夫、寺谷千枝子、Caren van Oijen各氏に師事。ベルリン在住。