院進? 留学? フリーランス? 就活? 音大生の進路について考察してみる

新生活で慌しかったり、夢中で練習を重ねていたりした1・2年生を経て、3年生に進級した音大生の頭に忽然と現れるのが「進路をどうしよう」という悩みではないでしょうか。

大きく分けて、その進路は4種類だと思います。

に進む、留学する、フリーの演奏家としてやっていく、就職する。

給与のこと、将来の不安のこと、自分の興味関心のことなどさまざまな要素が複雑に絡み合い、すぐには答えにたどり着けないことも多いでしょう。

今回は、COSMUSICAライター含む 名の音楽家に、進路選択の際にどのような考えでどうしてその選択をしたのかを聞いてみたいと思います。

月元 悠の場合(大学院進学)

ヴァイオリニスト 月元 悠(つきもと はるか)さんは音楽大学ではなく一般大学の出身ですが、幼少期からヴァイオリンを習い、プロを目指していました。学部を卒業する際は、大学院へ行くか留学するか悩んだそうですが、大学院への進学を決めた理由とはなんだったのでしょうか。

月元「大学を卒業したあと音楽を専門的に学ぼうと決意したきっかけは、尊敬するヴァイオリンの先生が演奏されたピアノカルテットを聴いたことです。その演奏に非常に感銘を受け、やはり私は音楽を中心とした人生を歩んでいきたいという思いを新たにしました。

海外へ出ることも検討しましたが、『私は日本でまだ学ぶべきことがある、もう日本でできることはやりきったと思えてから次のステップへ行きたい』という考えがあったため、日本の大学院へ進みました。この春に修了予定ですが、今後はいよいよ海外へ行くことを見据えています」

▶︎参考記事:「プロを目指しながらも一般大学へ。音楽大学へ進学しないメリットとデメリットとは

あきこ@ベルリンの場合(留学)

「学部を卒業したら海外へ行くと決めていた」というあきこ@ベルリンさん! その決意はどのようにして生まれたものなのか聞いてみます。

あきこ「音楽の道を目指した時から、西洋音楽の本場であるヨーロッパにいつか留学をしたいというのは考えていました。ただ、本格的に音楽大学を目指したのが入試の一年半前くらいでしたし、先生もまだ知らなかったので、まずは日本の大学にきちんと入ることにしたのです。

入学してからも学部を中断したくなかったことや、将来日本で活動するかもしれないこと、休学の利点欠点などを考えた上で、学部途中では留学せず、学部というひとつの山を登り切ってから、次の段階へ進むと決めました。

大学院で留学を検討するにあたり、日本の大学院の入試も受けておくかというのは少し悩みました。ただ、もし日本の大学院に入り、その途中で留学が決まったとしたら、目一杯休学しても日本では卒業しない、もしくはできないだろうと思い、それならば留学ひとつに絞ろうと思ったのでした。」

▶︎参考記事:「ベルリン便り Vol.1~はじめまして~

遠藤 采の場合(フリーランス/別科)

ソプラノ歌手 遠藤 采(えんどう さい)さんは、東京藝術大学の学部を卒業後、別科(実技だけを学べる2年制のコース)に通いながらフリーとして活動中。クラシックだけでなくポップスの歌唱にも挑戦するなどして、活動の幅を広げています。別科進学を選んだ、その心は…?

遠藤「別科では、新たに男性の先生について勉強しています。その先生は非常にテクニカルに、楽器を演奏するみたいに自由に歌う方で、初めてその先生の演奏を聴いたとき、この方に発声法を習いたいと思いました。

別科に入ってからは、学部時代と違って空き時間を自分の好きに使うことができるので、お仕事もいろいろとやらせていただいています。学部では基礎をコツコツと積み上げてきたので、今はいろいろと挑戦したい時期。さらに尊敬している作曲家の方に『クラシック以外も歌えた方が良いのでは?』というアドバイスを受けたこともあって、テレビで歌ったり映画で歌ったりゲーム音楽で歌ったり…振り返ればクラシックじゃない本番の方が多かったですね。

ジャンルの幅が広がったことで、自分の世界もすごく広がりました。ポップスの世界では歌唱の表現も多彩ですし、これまで表現したことのなかった感情を表現することもあったので、それがクラシックの演奏にも生きています。現在はポップスの発声レッスンにも時折通っていて、今後ますます活動の幅を広げたいなと考えています」

▶︎参考記事:「演奏家を志したきっかけから挫折まで。ソプラノ歌手 遠藤采に聞く、声楽家への道のり

Mさんの場合(就職→フリーランス)

音大で作曲を学び、卒業後楽譜出版社へ就職したのち、フリーランスとなったMさんは、「演奏家ならともかく作曲は学生期間を延長したからといってどうこうなるものでもないため、卒業したら社会になにかしらの形で出る、と考えていた」と言います。

M「入学当初から『大学3年生になるまでに、なにかしら出版なり受賞なり成果が出なければさっさと就職に切り替えよう』と思いながら大学生活を過ごしていました。しかしそうこうしているうちに、気づけばもうまもなく大学2年の冬休みに突入…焦りました。ものすごく焦りました(笑)

そんな時期のことです。お世話になった先生から、とある作曲コンペの情報を教えていただき、ダメもとで応募してみたら入選! それが縁で知り合った方々からまた別の仕事もいただけるようになり、立て続けに自分の作曲作品の出版とCD化も決まり……そのあともそれをきっかけにさまざまな方によくしていただくことができました。卒業後に就職することになった楽譜出版社と出会ったのもそのころです。レコーディングでお世話になった先生に紹介していただいたことでご縁ができました。

就職後は、出版社でさまざまな楽譜の出版やCD制作に携わりつつも並行して作編曲をおこなっていました。若い会社だったということもあり幅広い業務を任せてもらったため、新卒一年目ではなかなかできないような得難い経験をたくさんさせてもらいました。仕事を通して出会った、さまざまな先輩作曲家の方々とお話したり、ほかの会社さんの仕事を見たりしているうちに、会社でやっている業務を越えていろんなことにチャレンジしてみたくなり……まわりの方の後押しもあり、退職して現在はフリーランスとして活動しています」

ノリコ・ニョキニョキの場合(就職→フリーランス)

せん越ながら私ノリコ・ニョキニョキからも少々語らせていただきたいと思います。私は専攻が演奏ではなかったのでそもそもの前提が違いますが…私は卒業後、音楽とはまったく関係のないPRの会社(業界でいうと広告ですね)へ就職しました。

結果的に一ヶ月でやめた上に、現在はどんな運命のいたずらか「クラシック特化コラムサイト」なんてものを運営していますから何を参考にしろとも言えないのですが、私が一般企業への就職を希望したのは「好きなことは好きなことのままとっておきたい」と考えたからです。「好きなことを仕事にしたから楽しい」ケースと、「好きなことを仕事にしたら楽しめなくなった」ケースはどちらもあると思っていて、もしかしたらそれは実際にやってみないとわからないことかもしれませんが、私は大学4年間で音楽制作をするなかで「もうこんな生みの苦しみは味わいたくない」と思ってしまいました。

また、これも人によっていろいろな意見があるかと思いますが、個人的には「好きなことを仕事にする」よりも「得意なことを仕事にする」方が自分のためにも世の中のためにも生産的なのではないか考えており、「自分は音楽制作で頭ひとつ抜けられない」と察したときにその道はすっと選択肢から消しました(よくドライだねと言われます)。

音大生は就活に不利なのか?

ところで、「これまで音楽しかやってきていないのに、就活なんてしてもなかなか採用してもらえないのではないか」という懸念をよく耳にします。果たしてそれはどうでしょうか。

これもまた個人の意見ですが、音大生であることは正直、就活にかなり有利だと思います。なぜなら世の中を見渡せば「音楽しかやってきていない」どころか「これといって何もやってきていない」学生がたっくさんいる上に、「何年間も毎日コツコツと楽器を練習してきた根気・忍耐・努力」は多くの企業が欲している能力だからです。

もちろん、面接では「なぜ音楽の道を諦めたのですか?」といった趣旨のことを必ず聞かれます。ですがこれは音大生を責めているわけでもなければ、テストしているわけでもありません。面接官は単純に、知りたいだけです。要するに志望動機です。なので斜に構える必要はありません。正直に理由を言っていいのです(バカ正直に、という意味ではなく、嘘をつく必要はないという意味です)。

ずっと音楽漬けの人生を送ってくると、レールから飛び降りて就職することがとてもおおごとに思えるかもしれません。まわりが院に行ったり留学したりする中で、本当にこれで良いのかと不安になるかもしれません。ですが本当に、案ずるより産むがやすしという感じだと思います。就職も、案外楽しいですよ。ビジネス的な感覚を身につけると、これまで思いもよらなかったことが見えてきたりします。就職しても、今までの頑張りが無駄になったり消えてしまうことは絶対にありません。関わり方が変わるだけです。

就活するかどうかで悩みに悩んでいる方がもしこれを読んでいたら、ぜひ一度肩の力を抜いて気軽に考えてみてくださいね。

ABOUTこの記事をかいた人

ノリコ・ニョキニョキ

COSMUSICA編集長。1989年イギリス生まれ。東邦大学医学部医学科中途退学、東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科卒。IT企業、外資広告企業勤務を経て現在フリーのライター、編集。2016年6月にCOSMUSICA立ち上げ。ハープを勉強中。