弦楽器群のダークホース!? ヴィオラってどんな楽器?


「ビオラ? ヴィオラ? 何それお花? 洗剤のメーカー?」

いえいえ、れっきとした弦楽器です。こんな見た目をしています。

「え?ヴァイオリン?」

違います、ヴァイオリンより少し大きい楽器、ヴィオラです。

「少し大きいのはチェロじゃなくて?」

いいえ、チェロより小さくてヴァイオリンより大きいのがヴィオラです。

こんなふうに、なかなか認識されづらく、その影の薄さ(?)ゆえにいろいろなジョークの対象とされてしまう楽器、ヴィオラ。しかし実は、魅力たっぷりな楽器なのです! 今回は、そんなヴィオラについて、分かりやすくご紹介したいと思います♪

大きいヴァイオリン、小さいチェロ

前述のように、ヴィオラを一言で表すならば、「大きいヴァイオリン」ないし「小さいチェロ」。ヴァイオリンとチェロの間の音域を出すことができます。ヴァイオリンのように肩に乗せて演奏しますが、調弦はヴァイオリンより 5 度低いド・ソ・レ・ラ(ヴァイオリンは下からソ・レ・ラ・ミ)。これはチェロと同じですが、音域的にはチェロのちょうど1オクターブ上になります。

弦楽器の中音域を担当することから、本来であれば胴体はヴァイオリン(約36cm)の 1.5 倍程度、つまり54cmくらいになるはずなのですが、一説によると、それだとヴァイオリンのように肩に乗せて弾くには大きすぎるし、チェロのように膝に挟んで小さすぎるということで、肩に乗せて弾けるギリギリの大きさになったといわれています。そんなわけで、実際のヴィオラの胴体はおよそ 38〜45 cm、全長は70cm前後です。

規格外、個性的?

ヴァイオリンやチェロのように、およその大きさが決まっていないヴィオラ。楽器によって胴体の大きさや全長、弦の長さなど、いろいろな部分の大きさが違い、その音色もさまざまです。一般的に、大きめのヴィオラは力があって深い音が、小さめのはヴァイオリンのように華やかな音が出ると言われています。

我が家にたまたま3台ヴィオラがあったので、比較してみました。左から、胴体が 41.5cm、 40.8cm、 39.8cmです。一番左と一番右を比べるとその差は歴然ですね。

横から見比べるとこんな感じ。上から順に、39.8cm、 40.8cm、 41.5cm。

ネックの長さも弦を押さえる上で非常に重要で、胴体は大きいけれどネックが短い楽器、などもあります。

このようにさまざまな楽器があるため、これ! という楽器に出会うのは非常に難しいことです。音色に惹かれて使い始めたら体に合わなくて体を壊したり、大きさが合った楽器を見つけたと思ったら音色が好みでなかったり…。また、人によって“ヴィオラという楽器の音色”に対するイメージもだいぶ違うので、あの人はヴィオラらしくて良い音だと言ったけれどこの人はこんなのはヴィオラでないと言う…などということはよくあります。

影となり日向となり…

ヴァイオリンでもなくチェロでもなく、何だかいまいち中途半端で華がないと思われがちなヴィオラ。いや、あながち間違ってはいませんが。

19世紀に入るまでは、ヴィオラは独奏楽器としてあまり認められておらず、ほとんどオーケストラや室内楽で用いられる「合奏楽器」と見なされていました。ヴァイオリンやチェロにたくさんのすてきなソナタを残したベートーヴェンは、ヴィオラには一曲も独奏曲を書いていません。。。しかも、オーケストラで回ってくるのも、同じ音を弾き続けたり、ヴァイオリンの華やかなメロディーの横でリズムを刻んでいたり、何だか損な役回りばかり…。

(楽譜左:ヴェルディ作曲歌劇『椿姫』・乾杯の歌。譜面中の%のような記号は、その前の小節を繰り返すことを意味します。楽譜右:モーツァルト作曲歌劇『後宮からの逃走』・序曲)

『運命』の名で知られるベートーヴェンの『交響曲第5番』の第2楽章冒頭では、ヴィオラがメロディーを弾いていますが、実はチェロと一緒に弾いているので、ただ聞くとチェロのソロに聞こえてしまうことも…。

 

それでも、大切な中音域を担うので、ヴィオラなくしては“あんこなしの鯛焼き”です! ヴィオラはまさに縁の下の力持ち。あまり目立つことはないけれど(もちろん目立つこともありますよ!)、オーケストラにとっては非常に大事な楽器なのです。

独奏楽器としての可能性

19世紀以降にようやく独奏楽器としても注目されはじめた、ヴィオラ。まだまだヴィオラ独奏のレパートリーは多くはなく、時にヴァイオリンやチェロなど、その他の楽器の曲を編曲して弾くこともありますが、ヴィオラのための独奏曲のなかにもすてきな曲がたくさんあります。

たとえば、マックス・ブルッフの作曲した、『ヴィオラとオーケストラのためのロマンス』。音色が人の声に一番近いといわれているヴィオラだからこそ、涙が出てしまいそうな、人の心に響く音楽を奏でられるのです。

 

ヴィオラ曲をたくさん書いた作曲家として欠かせないのが、ドイツの作曲家、パウル・ヒンデミット

20世紀の作曲家ということもあり(一昨年ようやく版権が切れました)、中にはなかなか奇妙な曲も。そのうちのひとつ、『無伴奏ソナタ作品25−1』の4楽章には、「♩=600 “Rasendes Zeitmaß. Wild. Tonschönheit ist Nebensache” (猛烈な速さで。野蛮に。音の美しさは二の次で)」と書かれています。♩=60が秒針と同じ速さ、1分に60音なので、♩=600は1秒に10音入れる計算です…理論上は。

 

ちなみに、ヒンデミット本人が演奏している録音は、びっくりするほどゆっくりです。笑

ヴィオラジョーク!

その存在感の薄さや、その他さまざま理由からなんとなくネタにされてしまいがちなヴィオラ/ヴィオラ奏者。そうして生まれたのが「ヴィオラジョーク」! 世界中それぞれの言語でさまざまなジョークがあります。

たとえば、

あるヴィオラ奏者が定年退職し、自宅にヴィオラを持って帰ると、奥さんに「あなた、その箱はなに?」と言われた。

なんてジョーク。言われて意味が分かりますか?

そう、ある程度ヴィオラのことを知らないと笑えず(時にはヴィオラ奏者でさえ分からないものも)、なんだか内輪で笑ってしまうようなブラックジョークが、ヴィオラジョークなのです。

上記のジョークはヴィオラの知名度が低いことに由来しており、奥さんでさえ旦那が何をやっているのかきちんと分かっていない、とネタにしています。


時に影で周りを支えたり、時に目立ったり、時に自虐的だったり…非常に多種多彩な役割・キャラクターを持つヴィオラ。そのせいか、ヴィオラ奏者には個性的な人が多いような気がします。

今回ご紹介したのはほんの導入編。ヴィオラの魅力は数え切れないほどあります。そんなヴィオラという楽器、どうかこれを機にご注目くださいませ♪

 

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