何歳から追いつける? ピアノ科受験のタイムリミットを検証

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はじめまして! COSMUSICAで初めて書かせて頂きます、じゅあんです。

さて、突然ですが、はじめて出会ったAさんという方が、「音大のピアノ科を卒業しました」と自己紹介したとします。そのとき、どんな印象や感想を抱くでしょうか?

「小さい頃からずっとピアノを弾いているんだろうな〜」

と思う方、多いのではないでしょうか。

それは、ほとんどのケースでその通りです。ですが、そうではないというイレギュラーなケースももちろん存在していて、私がまさにその後者にあたるのです。

そんな自身の経験をもとに、今回の記事では、ピアノ科受験をするにあたっての所要時間、いわば受験までのタイムリミットはいつなのかということを考えていきたいと思います。

さて、私の経歴はといいますと、国立音楽大学附属高校音楽科(ピアノ専攻)から国立音楽大学を卒業し、その後はピアノやソルフェージュを教えながら午前中は私立高校の非常勤講師をしています。そしてこの3月に仕事と並行しながら東京学芸大学大学院の音楽教育専攻を修了しました。(この大学院進学についてもいつかお伝えできたらと思っています!)

ピアノ科に進学したい!という想い

私が某音楽教室に入ったのは5歳。しかし発表会で弾いたのは中学2年生が初めてでした。曲は「エリーゼのために」…
お察しの通り、専門的なレッスンを受けないまま「音大行きたいな~」という妄想だけを抱いて、中学3年生までのんきに育ってしまいました。初めて受験を見据えた専門的なレッスンを受けたとき、先生には「こんな失礼なピアノを聴いたのは初めてです。今すぐ諦めてください」と言われました…嗚呼…。

妄想から現実へ

私は図々しくも「来週もレッスンを受けさせてください!」と懇願(こんがん)しました。先生は「ハノンは1~20番まで、エチュード、バッハ、ベートーヴェンすべてをマルカートで」という課題をくださいました。「おお!これが専門的なレッスンか~最高だな~」と思って練習し、一週間後に「これからみます」とレッスン継続の許可が頂けました!

そして入試結果、その年度は不合格でした。人生の中で、初めての舞台が中学2年。そして次の舞台が中学3年の入試。当然の結果です。そして気の進まない公立高校に進学して音大を目指そうと思ったのですが、どうにも悔しくて高校1年の2月に再受験。その時に合格して、やっとピアノ科への進学が現実のものとなりました。

苦労したこと

その1 お金がかかる

そもそも私立高校の学費が高額というのに加え、レッスン代、楽譜代、発表会費、ドレス代…など、親の負担を思うと頭があがりません。普通のサラリーマン家庭に育った私は、大学からはバイト代で払っていました。バイトをしている友人は少なかったですね。練習には毎日多くの時間を割く必要がありますし、やはり私立音大には裕福な家庭の子が多いというのもあります。ここでまたテクニックの差が開くという現実にも直面しました。

その2 音楽ならではの世界を知らない

ホームレッスンへ行くときのお礼を渡すタイミングや、発表会での振る舞いなど…。クラシック界の慣習を知らないということで苦労しました。

その3 ”一曲入魂型”にしかなれない

基礎的なテクニックがないので、課題が出たときには特に「一曲入魂!」これしか選択肢はありません。毎週の課題は3曲だったので「三曲入魂」するしかない。練習時の私はまさに「のだめが白目になっているとき」ですね。それはこの歳になっても同じ。曲を決めたら入魂。一生入魂ピアノ人間になる。そして入魂に失敗すると格段にヘタクソです。(入魂できてもそこまでではないのですが)

何歳からピアノを始めたらいいか

それでは本題。プロの演奏家になるには、何歳からピアノを始めるべきなのでしょうか。

日本では、某楽器店の打ち出しの影響からか「3歳から説」が有力みたいです。実際、日本の有名なピアノ教育者の先生方はどのようなお考えをお持ちなのでしょうか?
ソルフェージュの初期教育で有名な呉暁先生は4歳、母校のピアノ教育の専門家でいらした青木靖子先生は6歳、バーナムピアノテクニックを日本のピアノ教育界に広めてくださった中村菊子先生は「その子の興味を示し方を見ながら3~6歳」というご意見でした。

ピアノだけじゃなく、音楽力

私の場合は5歳から習い始めたものの、そこから10年はほぼ遊んでいる状態。15歳で始めたといっても過言ではなく、演奏技術が身についていないままのピアノ科受験でした。間に合った、と言えるのでしょうか? それは今でも疑問です。

ただ、ひとつだけ言えることは、専攻実技以外の音楽科目(ex.聴音、新曲視唱)に関しては、半年でも間に合いました。不合格だった1年目もこの2科目だけは合格ラインに達していた自信があります。

私は小さいころからピアノで遊んでいました。TVから流れている曲、学校で習った曲に和音で伴奏を付けながら弾いていました。中学でアルトサックスを吹いていたときは「実音だとこうだな~」と意味なく移調をしたものを五線紙に書いていたりしました。専門的なソルフェージュ教育は受けていませんでしたが、幼い頃から音楽への興味関心が根付いていたということが、約3年ほどでピアノ科に合格できた理由のひとつだと思います。

夢を追ってみるという選択肢

私のピアノ学習過程は、ピアノ科進学を目指す方にお勧めすることはできません。ただ「一曲入魂」に全身全霊をかけることができて、音楽が好きで、与えられなくても自分から音楽や楽譜と向き合う気持ちがあったら、こんなことも起こるというひとつのエピソードとして執筆しました。

もちろん、演奏家になるには音大合格がゴールではないので、そういった意味ではやはり4~6歳くらいからレッスンをきちんと受けることが大切だと思います。ですが、物心ついてからピアノ科を目指した私が何かほかの方より勝っている点があるとすれば「どうしてもピアノ科に進みたい」という自発的な情熱だったと思います。仮にその後演奏家として身をたてることを諦める結果となっても、何かひとつでもしっかりした技術を身につけられれば、他の様々な分野でも生かされることは疑いようもありません。

私のこんな恥ずかしエピソードも、コラムの一つとしてお楽しみいただけたら幸いです。
これでもまた音楽をやっています。私は今、音楽教育者の端くれものとして日々、精進しております。それでは!!

 

じゅあん

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国立音楽大学附属高校音楽科を経て国立音楽大学卒業。その後、ピアノ・ソルフェージュの指導をしながら都内私立高校音楽科講師。(株)厚木楽器にて音楽芸術コース・ソルフェージュ科講師。2016年3月東京学芸大学大学院教育学研究科音楽教育専攻修了。
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