大友清心コラム「声楽の伴奏者がこっそり勉強してること」


こんにちは! 作曲家・ピアニストの大友清心です。前回の記事『目立ちたがり屋さんは不向き? 伴奏ピアニストに求められること』では、広い意味での伴奏者に求められることについてご紹介いたしました。今回はその中でも声楽の伴奏者の、声楽の曲を伴奏する時ならではの必要な準備や勉強の内容について書いていきますね。

そもそも器楽の曲と声楽の曲では何が違うのでしょうか?

大きな違いは、ほとんどの声楽曲には歌詞があることです。声楽の曲はオーケストラ作品や器楽曲の作品と比べると一曲あたりの時間が短い傾向にあり、5 分以内の作品も多いのですが、歌詞があることによって勉強しなくてはならないことも多くなりますし一曲あたりの奥深さを感じています。

声楽曲を伴奏するために

hall

詩の意味を調べるのは歌手だけではないの?

いきなりですが、どんなことを書かれている詩なのか理解せずに演奏する声楽の伴奏者がいたとしたら、その人は伴奏者として失格だと私は思います。

なぜなら、詩のテキストと音楽は密接な関係に作られていることが多いからです。

例としてシューベルト作曲の有名な歌曲「美しき水車小屋の娘」の中の『どこへ?』という曲を紹介します。はじめのピアノの伴奏では水が静かに流れる様子を細かいパッセージに表されていますが、詩に不安げな言葉が出てきたときに、まるで影になるかのようにパッセージが暗い和音へと移り変わります。

また先を見ていくと、「小川に沿って」という詩のところでは低音がメロディーと共に動いていき、「小川はどんどん清々しさを増していく、明るくなっていく」からはピアノにも躍動感が加わりどんどん前に進んでいく希望に満ちた印象が与えられています。このようにテキストと音楽が共に世界観を表現している曲はたくさん存在します。

一方で、死や絶望を表している詩に対して、明るい音楽がつけられている曲も存在します。詩の内容に必ずしも音楽が忠実に作られているわけではありません。詩だけを見ると絶望的な作品に、希望の光を差し込ませるかような役割を音楽に持たせることもあります。詩の世界観とは違う独立した世界観を音楽に持たせることによって、歌曲作品としての新しい世界観が生まれ、深みや味わいが演出されます。ですので、詩と音楽の関係を把握したうえで、その音楽に持たせられた役割を演奏で表現していく必要があります。

これらのことからわかるように、声楽曲は詩と音楽それぞれの世界観が合わさっている作品なので、歌手が詩のテキストの読み方や意味を知っていないと歌えないのと同じぐらい、伴奏者も詩のテキストの意味を理解していないと声楽曲の伴奏はつとまらないものなのだと思います。

調べるのはテキストの意味だけじゃない

flower

また伴奏者は、作曲家の音の使い方や譜面の書き方の特徴も勉強しておく必要があります。というのも、その作曲家にとって「愛を表す和音」、「死を表す音列」などが象徴的にあることも多く、それを知っているのといないのでは演奏が大きく変わってしまうのです。

たとえばブラームスの歌曲では詩の中にたびたび登場する「熱い涙」という言葉に、象徴的な和音をつけています。その音使いから、ブラームスがその和音に対して持っていたイメージを想像することができます。これを知っていると、彼の歌曲以外(テキストの使われていない)のピアノソロ曲などを演奏するときにも、和音の意味合いを汲み取って、作曲者のイメージされた演奏により近づけるようになるのではないかと思います。

たくさんの作品を分析しながら自分で気付いていくのは大変な労力になりますが、今では作曲家ごとの演奏法の書籍や、ネット上にも役立つ解説がたくさん公開されていたりするので、私も少しずつ情報を仕入れるようにしています。

ここまでは演奏をする以前の準備で必要なことを書きました。声楽曲の伴奏をするためには、このようにたくさん準備をする必要があります。

しかし、これらをふまえた上で何より一番大切なことは、やはり“良い演奏”をすることです。歌の作品は楽器を使わずに声だけで表現するため、ブレスをしたりたっぷり溜めたり進めたり、というものが器楽曲よりある意味生々しい音楽になります。できるなら暗譜ができている状態で、視界に歌手を入れて、背中からの呼吸の気配を読み取りながら演奏できることが望ましいです。

さいごに

私は歌曲伴奏のなかでも特にリート伴奏を勉強しています。演奏時間の短い一曲一曲を勉強するごとにその作品の奥深さに触れられる喜びを感じ、その作品に魅了されどんどん好きになっていくのを実感しています。そして尊敬できる歌手と共演するたびに新たな気付きがあり、素晴らしい作品の奥深さを演奏で表現する難しさも痛感しながらも、それに取り組み一緒に演奏をつくっていけることが一番の幸せです。まだまだ知らない曲や勉強すべきことがたくさんありますが、今後もさらに知識を深め、良い伴奏を目指していきたいです。