進め! ヴァイオリンおけいこ道 第10回「楽屋ではスマートに」


こんにちは。今週もおけいこ道のお時間がやってきました! ヴァイオリン弾きの、卑弥呼こと原田真帆です。
今回は「出番の直前」について取り上げます。

緊張の楽屋にて

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もう秋のコンクールの予選をいくつか終えた方もいらっしゃる頃ですね。コンクールの楽屋というのは、とても緊張感あるもの。良い緊張感のみならず、そこには相手をけん制するような緊張もあります。

特に、「ここはもう勝手知ったるところだから」というようにドヤ顔(に見えただけ)で鏡の前を占領する人や、知り合い同士で歯が浮くようなお世辞合戦を繰り広げる人たちなどは、見ていてあまり気持ちの良いものではありません。

本番前の楽屋は、誰もがちょっと急いで支度しているもの。鏡の前のスペースはそれぞれができるだけコンパクトに使うべきですし、部屋の広さも限られているので、用が済んだ人は速やかに退出すべきです。

わたしは幼い頃バレエを習っていました。これがうんと下手で、コンクールに出たことこそありませんでしたが、発表会には出ていました。10人程度の一クラスあたり、与えられる楽屋はひと部屋。普段から仲が良いのも相まって、相手を気遣いながら、感じよく譲り合っていたことをよく覚えています。そしてそれは、そばに付いているお母さま方のおかげでありました。

だからヴァイオリンのコンクールの楽屋は、どうしてみんなああも自分勝手に使うのかなぁ、と疑問を抱いていたわけです。子どものコンクールに、その傾向は強い気がします。

和やかすぎた楽屋

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大学1年生の時に出た現代音楽のコンクールにて、わたしは楽屋の空気に衝撃を受けました。年齢制限がないことから、もうプロとして活動されている大人の方の参加が多く、場所は譲り合うわ、誰にでも笑顔で「おつかれさまです」と言い合うわ、荷物のまとめ方が超効率的で速いわ、これまで見てきた楽屋の光景とはあまりにかけ離れていました。

とりわけ衝撃的だったのが、本選の日の出来事。リハーサルが設けられていたこともあり、「難しそうですね」と本番前から相手の曲への感想を述べ合ったりして、お互いに親近感が湧いていたところで、ある方が言ったのです。

「あの、衣装のチャックが絡まってしまって……ちょっと助けていただけませんか」

わたしと、もうひとりお姉さんが、思わずガタッと様子を見に行ったところ、チャックは盛大に衣装の裏地を食っています。その食いざまが半端なく、わたしは正直、むしろどうしてこんなに絡まったかな……と思いました。

その女性が身にまとった衣装のチャックを、出場者ふたりでうんうん言いながら上げ下げしていたら、ふいに女性が笑い出しました。つられてわたしたちも笑ってしまいます。何とかドレスを脱ぐことができ、無事チャックは外れましたが、あれ、裏地の復旧はその後も無理だったろうなぁ……。

とにかく、これから競おうとしている3人が、額を寄せ合ってチャックに向き合い、笑いをこらえられない様子は、わたしにとって珍事そのもの、とても思い出深いことでした。そのときのみなさんとは、今でも交流があります。ちなみにそのチャック事件、女性は本番15分前だったと記憶しております。

自分のペースは大事だけど

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最高のパフォーマンスに向けて、自分のペースを守るのは大事。しかし、他者への思いやりができてこそ、自分のペースを守らせてもらえるってもんです。なぜならコンクールの楽屋は公共の場だから。

公共の場と言えば、例えばトイレですよ。適切な場所を、適切な順番で、適切な方法で使ってこそ、トイレを使う権利が得られると思いませんか? ピンチの人がいたら譲ることもまたトイレ。でないとあなたは事故の目撃者になります。相手に配慮することで、結果的に自分を守れるんですよね。

例えに品がなくて申し訳ありません。わたしはよく、家のトイレを長々と占領して怒られるのです。個室は落ち着くもので、ついぼんやり考え事をしてしい……。

留学中の住まいを考える際、母に言われました。

「寮だったら、トイレたくさんあるから、長々と入っていても大丈夫なんじゃないかな」

公共の場は、譲り合って使いましょう


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ABOUTこの記事をかいた人

原田 真帆

栃木県出身。3歳からヴァイオリンを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校・同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程2年在学中。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。佐々木美子、山﨑貴子、澤和樹、ジェラール・プーレ、小林美恵、ジャック・リーベックの各氏に師事。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。